「親の介護、正直したくない」。そう思ったあとで、そんな自分を冷たい人間のように感じて、苦しくなっていませんか。
先にお伝えします。そう感じる人は少なくありません。そして、親のサポートは自分の手で全部を担うことだけではありません。厚生労働省も、介護休業は「自分が介護を行う」ためではなく、両立できる体制を整える準備期間だと説明しています。そして、一人で抱え込まずに制度やサービスを使うよう呼びかけています。
この記事では、したくない気持ちの整理のしかたと、「自分がやること・頼むこと・やらないこと」の分け方を紹介します。相談するときの言い方の例や、公的な相談先もまとめました。
親の介護をしたくないと感じるのは、おかしいことではない

「したくない」という気持ちには、たいてい理由があります。理由が分かると、何を減らせばよいか、誰に何を頼めばよいかが見えてきます。
よくある理由を書き出してみる
次のうち、近いものはありますか。いくつ当てはまってもかまいません。
- 仕事が忙しく、時間も体力も残っていない
- 自分の家族(配偶者・子ども)のことで手いっぱい
- お金の負担がどこまで増えるのか分からず、怖い
- 何から始めればいいのか分からず、考えるだけで疲れる
- 親との関係が昔からぎくしゃくしていて、近くにいるとつらい
- きょうだいがいるのに、自分ばかりが頼られている
- 体の介助(入浴やトイレなど)を自分がすることに抵抗がある
- 親が老いていく姿を見ることそのものが、さみしくて苦しい
どれも、多くの子ども世代が抱えている思いです。「したくない」と感じることと、親を大切に思う気持ちは、同時にあってかまいません。
「介護する」は、自分の手でお世話することだけではない
親のサポートは、大きく2つに分けて考えることができます。
- 直接の介護:食事・入浴・トイレ・着替えなど、体に触れる手助け
- 手配と見守り:相談先に連絡する、サービスを決める、お金や書類を整える、様子を気にかける
直接の介護は、介護保険のサービスで専門職に頼める部分があります。たとえば訪問介護(ヘルパー)やデイサービスです。厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、デイサービス(通所介護)の目的の一つに「家族の介護の負担軽減」が挙げられています。
家族にしかできないのは、むしろ「手配と見守り」の側です。体の介助をしなくても、親のサポートに関わる方法はあります。
法律ではどう書かれているか
「子どもには介護の義務があるのでは」と不安になる方もいます。民法第877条第1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と書かれています。また第879条では、扶養の程度や方法について、当事者の協議がまとまらないときは、家庭裁判所が事情を考えて定めるとされています。
条文の中に「介護」という言葉は出てきません。どこまでが求められるかは、それぞれの事情によって変わります。気になるときは、一人で結論を出さずに、弁護士や法テラス(日本司法支援センター)に相談してみてください。
「自分がやること・頼むこと・やらないこと」を分ける

気持ちが重いときは、紙かスマートフォンのメモに3つの欄を作ってみてください。親のことで気になっている用事を、1つずつ振り分けていきます。
- 自分がやること:自分が引き受けてもよいと思えること
- 頼むこと:きょうだい・配偶者・サービス・相談窓口に任せたいこと
- やらないこと:今の自分には引き受けられないと決めること
「やらないこと」の欄を作るのがこのワークの目的です。この欄に入れたことは、誰か別の人やサービスが担う前提で、相談先に伝えます。
振り分けのチェックリスト
おやまもの手続きナビ「心配になってきた」と同じ言葉で並べました。上から順に、3つの欄のどれに入るかを考えてみてください。
- □ 親の「困りごと」を書き出す(歩く・食べる・買い物・薬・お金・物忘れ・気分)
- □ かかりつけ医と飲んでいる薬を把握する
- □ 地域包括支援センターの場所と電話番号を調べる
- □ 地域包括支援センターに一度電話する
- □ きょうだい・配偶者と一度話す
- □ 通帳・保険・重要書類の「ある場所」を聞く
- □ 通院の付き添い
- □ 買い物・食事の用意(配食サービスで代えられるか)
- □ 安否の確認(見守りサービスや電話で代えられるか)
- □ お金の出し入れと、立て替えた費用の記録
この中で、電話・調べもの・記録は、離れて住んでいてもできることです。体の介助をしない代わりに「手配役」を引き受ける、という関わり方もあります。
分けるときのコツ
- 「今の自分なら」で考える。数年先のことまで決めなくてよい
- 「やらないこと」に入れたら、理由は短く1行で書いておく(例:平日の日中は動けない)
- 迷うものは「頼むこと」に入れて、相談のときに聞いてみる
- 1か月ほどたったら見直す。状況が変われば、欄を移してよい
相談・家族に話すときの言い方の例

「したくない」をそのまま口にするのは勇気がいります。言いにくいときは、次の言い方を下書きにしてみてください。
地域包括支援センターに電話するとき
地域包括支援センターは、厚生労働省の説明では、高齢者の総合相談や権利擁護、介護予防に必要な援助などを行う機関として市町村が設置しています。相談する先は、親の住所で決まります。
- 「〇〇市に住む母のことで相談したいです。私は離れて住んでいて、仕事もあるため、自分が直接お世話をするのは難しい状況です」
- 「家族がどこまでやるかを決めかねています。使えるサービスや、手続きの順番を教えていただけますか」
- 「本人はまだ介護が必要だと思っていないようです。どう声をかければよいかも相談したいです」
聞かれることが多いのでメモしておくこと
- 親の名前・年齢・住所と、一人暮らしかどうか
- 最近困っていること(いつから、どんな場面で)
- かかりつけ医の病院名
- 要介護認定を受けているかどうか
- 相談している自分と親の関係、自分の住まいと連絡のつく時間帯
- 家族ができること・できないこと(先ほどの3つの欄)
きょうだいに話すとき
- 「最近、お母さんのことが心配で。役割を決める前に、まず今の様子を共有させてほしい」
- 「私は平日の通院の付き添いは難しい。代わりに、電話での手配とお金の記録なら引き受けられる」
- 「通院・お金・連絡の3つで、それぞれ担えそうなものを聞かせてほしい」
責めたり、比べたりする言い方を避けて「私はこれならできる」を先に出すと、話が進みやすくなります。
ケアマネジャーに伝えるとき
すでにケアマネジャーがいる場合は、家族の事情もケアプランを考える材料になります。
- 「家族が手伝える日と時間は、今はこれくらいです」
- 「私自身が限界に近いと感じています。家族が休める方法を相談させてください」
よくあるつまずきと対処
「家族がいるなら、家族で」と言われた気がする
相談の場で、家族の協力を前提に話が進むことがあります。そのときは「家族ができる範囲はここまでです」と具体的に伝えて大丈夫です。できないことを先に伝えるほうが、あとで計画が崩れにくくなります。
親がサービスを嫌がる
「他人を家に入れたくない」「施設には行かない」と言われることもあります。説得を一人で抱えず、地域包括支援センターやケアマネジャーに「本人が嫌がっている」とそのまま相談してください。見学や短い利用から始める方法を一緒に考えてもらえることがあります。
きょうだいとの温度差が大きい
遠くにいるきょうだいほど、親の変化に気づきにくいものです。様子を写真やメモで共有し、気持ちではなく「起きたこと」を伝えると、温度差が縮まりやすくなります。
お金の心配で動けない
介護保険のサービスには、所得などに応じた自己負担があります。金額の目安は、お住まいの市区町村やケアマネジャーに確認してください。費用は、まず親自身の年金や貯金でまかなえるかを確かめる、という考え方もあります。立て替えた分は記録しておくと、あとで家族で話し合うときの材料になります。
仕事を辞めるしかないと思い詰めている
辞める前に、勤務先の制度を確かめてください。厚生労働省によると、介護休業は対象家族1人につき3回まで、通算93日まで取れます(2026年10月3日時点)。休業開始予定日の2週間前までに、書面などで勤務先に申し出ることになっています。会社の制度や手続きは、勤務先の人事か、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に確認できます。辞典の介護休業・介護休暇もあわせてご覧ください。
自分の限界サインと、記録しておくと役立つこと
「したくない」という気持ちが強くなっているとき、体や心が疲れのサインを出していることがあります。次のようなことが2週間以上続く、いくつも重なるときは、様子見をやめて相談に切り替えてください。
- 眠れない、または朝起きられない日が続く
- 食欲がない、または食べすぎる
- 親の声を聞くと動悸がする、電話に出たくない
- 親に強く当たってしまい、あとで自分を責める
- 涙が止まらない、何もする気が起きない
- 「自分がいなくなればいい」と思うことがある
- 仕事のミスや遅刻が増えた
- 誰にも会いたくない、相談する気力がない
家族が休むための方法もあります。レスパイトは、介護する家族が一時的に休むことを指す言葉です。介護サービス情報公表システムでは、ショートステイ(短期入所生活介護)を使う場面の例が挙げられています。介護する家族の病気・冠婚葬祭・出張や、家族の身体的・精神的な負担の軽減です。連続して利用できるのは30日までです。
「手が出そう」「強く当たってしまった」と感じたときも、地域包括支援センターに相談できます。責められる場所ではありません。早めに話すことが、親と自分の両方を守ることにつながります。
記録しておくと役立つこと
- 親の様子で気になったこと(日付と、何があったかを1行で)
- 相談した窓口・担当者の名前・聞いた内容
- 「自分がやること・頼むこと・やらないこと」の欄と、見直した日
- 立て替えた費用(日付・何に・いくら)
- 自分の体調や気分(つらい日が続いていないか)
記録があると、きょうだいとの話し合いで「私ばかり」という思いを、事実で伝えやすくなります。おやまもでは、できごと・費用・気分を記録して、家族と共有できます。
親の住む地域の窓口と、公的な相談先
相談の窓口は、相談する人の住所ではなく、親の住所で決まります。おやまもの地域ページでは、市ごとに地域包括支援センターなどの窓口をまとめています。都道府県のページから、親の住む市を探してみてください。
市のページの例として、名古屋市のページや福岡市のページがあります。載っていない市区町村の場合は、次の順で探すと見つけやすいです。
- 検索で「(親の住む市区町村名) 地域包括支援センター」と入れ、担当区域の表を見る
- 親の住所を担当するセンターに電話し、「家族として何ができるか相談したい」と伝える
- 分からなければ、市区町村の介護保険の担当課に親の住所を伝えて聞く
公的な相談先
- 地域包括支援センター:親のこと全般の相談、介護保険の申請の相談、家族の負担や「手が出そう」という相談まで受けています
- 市区町村の介護保険の担当課:要介護認定の申請の窓口です。厚生労働省の説明では、申請は市区町村の窓口で行います
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):介護休業など、仕事との両立の制度について相談できます
- 法テラス:扶養や家族間のお金など、法律が関わる心配の相談先を案内しています
- よりそいホットライン:0120-279-338(フリーダイヤル・24時間対応)。どんな悩みでも相談できます
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556。電話をかけた所在地の公的な相談機関につながります(通話料がかかり、相談の時間は都道府県によって異なります)
命に関わる危険があるときは、ためらわず119番に電話してください。
よくある質問
親の介護をしたくないと思うのは、親不孝でしょうか?
そう感じる人は少なくありません。気持ちがあることと、親を大切に思うことは両立します。大事なのは、気持ちを否定することより、できる範囲を決めて、足りない部分を誰に頼むかを考えることです。
子どもには、親の介護をする義務がありますか?
民法第877条には、直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると書かれています。ただ、条文に「介護」という言葉はなく、何がどこまで求められるかは事情によって変わります。心配なときは、弁護士や法テラスに相談してください。
遠くに住んでいて、ほとんど何もできません。それでもよいのでしょうか?
離れていても、地域包括支援センターへの電話、サービスの手配、お金や書類の整理、きょうだいとの連絡など、できることはあります。体の介助を担わない代わりに「手配役」になるという関わり方もあります。
親が「子どもに見てほしい」と言います。どう答えればいいですか?
すぐに結論を出さなくてかまいません。「一緒に考えたいから、まず相談に行ってくるね」と伝え、地域包括支援センターやケアマネジャーに、本人の希望と家族の事情の両方を話してみてください。
施設に入ってもらうのは、見捨てることになりますか?
施設も、親の生活を支える選択肢の一つです。特別養護老人ホーム(特養)など種類によって入れる条件が違います。本人の希望を聞きながら、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してください。
まとめ
- 親の介護をしたくないと感じる人は少なくない。理由を書き出すと、減らせることが見えてくる
- 親のサポートは「直接の介護」と「手配と見守り」に分けて考えられる
- 「自分がやること・頼むこと・やらないこと」の3つの欄で用事を振り分け、相談先に伝える
- 相談先は親の住所の地域包括支援センター。家族ができないことも、そのまま伝えてよい
- 限界のサインが続くときは、様子見をやめて相談に切り替える
全部を一人で背負わなくて大丈夫です。まずは3つの欄を作るところから、始めてみてください。
出典・確認日
- 厚生労働省「介護休業|介護休業制度特設サイト」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/leave/(確認日:2026-10-03) - 厚生労働省「仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html(確認日:2026-10-03) - 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/(確認日:2026-10-03) - e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第877条・第879条
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日:2026-10-03) - 介護サービス情報公表システム(厚生労働省)「どんなサービスがあるの? – 通所介護(デイサービス)」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group7.html(確認日:2026-10-03) - 介護サービス情報公表システム(厚生労働省)「どんなサービスがあるの? – 短期入所生活介護(ショートステイ)」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/publish/group12.html(確認日:2026-10-03) - 介護サービス情報公表システム(厚生労働省)「サービス利用までの流れ」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/flow.html(確認日:2026-10-03) - 厚生労働省「電話相談窓口|まもろうよ こころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/(確認日:2026-10-03)
この記事は、親のサポートに関する一般的な情報をお伝えするものです。医療・介護の判断や、税金・制度の個別の判断を行うものではありません。制度の内容や金額は、お住まいの市区町村や所得などによって異なり、変更されることがあります。具体的なことは、市区町村の窓口・地域包括支援センター・ケアマネジャー・医師・税務署などにご確認ください。




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